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2022.11.04
ブランドアイデンティティ
クルマ好きでなくても印象的なBMWのフロントにある二つの開口部。一般的にはこの開口部はラジエターグリルと呼ばれていますが、BMWはその形状からキドニーグリル(キドニーは腎臓の意味)と呼ばれています。
私が小学生の時、このキドニーグリルが大嫌いでした。ホントに大嫌い。豚の鼻に見えて仕方がなかったからです。しかし大人になるにつれてそれもカッコよく見えてくるから不思議なものです。ただそのキドニーグリルが今、極大化し、その大きさに賛否が分かれています。
カーデザインの歴史を紐解くと、2004年に登場したアウディA6がそれまでフロントバンパーで上下2段に分かれていたグリルを一つにつなげ、大きなグリルとしました。その当時も賛否が巻き起こりましたが、すぐにそのデザインも受け入れられアウディの顔となり、それまでの上下2つに分かれていたデザインを見ると、むしろ“古い”と感じさせるまでになりました。他のカーメーカーも、その流れに追随したことからも、カーデザインの一つの潮流を作ったと言っても過言ではないでしょう。
昨今はEV(電気自動車)の普及により、エンジンルームに風を送る必要がなくなったため、テスラのフロントデザインに象徴されるようにグリルがないデザインも散見されるようになりました。
今後EVが主流になっていくであろう時代に、BMWの象徴であるキドニーグリルの大型化は、内燃機関の終焉を飾るものとして、もしくはEVへのアンチテーゼとしてデザインされたものと感じます。
一方、この巨大なキドニーグリルを採用したデザイナーは、「理屈ではなく、直感で、強い個性を表現したかった」「SNSの(ネガティブな)反響を気にしていてはダメ」と語っています。
賛否あれど強い個性こそブランドアイデンティティであり、“らしさ”を作っているものだと思います。強いブランドには強い個性がある。時には時代が拒絶しようとも、揺るぎない信念は確固たるブランドアイデンティティを築き、誰しもが無視できない存在となります。(マ)